月光が女の滑らかな背を撫で落ちる。その白肌はまるで陶器の如く。酷く、酷く、冷たそうであった。寝息を立てる男は、女の影になって塗り潰した様に黒く。そして酷く、酷く、冷たそうであった。

酷く、酷く、冷たい夜であった。まるで、




























つつ、と女の指先が滑る。薄皮一枚隔てた男の眼球の形状を確かめる様に。あと僅か、力を篭めれば破れてしまうだろう。皮の下で、男の瞳がゆらりと動く。


「お前さんの眼は地獄を視たのでしょうや」


花町はまだ灯が燈る。遠くで、近くで、爪弾く弦の音が漣の様。
ゆっくりと男の片眼が開く。


「なんだよ」
「おんなじでござんすよ」
「ぁ?」
「アタシと、おんなじ眼をしていなさる」


白陶の腕が取られる。艶やかな黒髪が敷布の上に散った。噛み付く程に近く。男は女の眼球を覗き込む。透明の肌に相対し、それは果てなく、濁濁と黒い。まるで、


「此処は、地獄でござんす。金箔で眼暗ましをした、地獄なんでござんすよ」
「……」


漣が途切れては始まるのを繰り返す。男の耳にはそれが、男の地獄で聞いた波音に聞こえていたのかも知れず、唯花町の音に聞こえていたのかも知れず。


「お前さんが地獄から這い出た様に、アタシを地獄から引き摺り出しておくれでないかい」




男の瞳は冷たい。




「知るかよ」




女の瞳は冷たい。






…お願い…




零れ出た言葉は咬むように重なった唇に吸い込まれて消えた。
酷く、冷たい夜であった。
女は後に小さく言った。嗚呼まるで此の世は、
閻魔の庭




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