| 星と月と海の唄 「スマイル!海行こうぜ!海!!」 窓の下で叫ぶ声にふと我に帰る。 目の前には所々黄色に塗られた教科書の活字と白紙の進路希望調査のプリントが無造作に横たわっていた。 窓の下を覗き込むと声の主が此方を見上げて笑っている。 よっスマイル!海行こうぜ!!海海!!」 「ペコ・・・勉強は?明日だよ模試」 「勉強なんていつでも出来んよ!」 「・・・海だっていつでも行けるよ」 ぼそりと言ったスマイルの言葉を無視して歩き出す。 「先行ってんよっ」 少しづつ遠くなる背中をしばらく眺めてから追いかける。 いつもの道をいつもの距離で 手にはお菓子とルービックキューブ 海は穏やかで少し曇っていた。 「うーみーはっひろいーなっ・・・」 「ねぇペコ」 手元のキューブがカチャっと音を立てて色を変えた。 「んー?おっカニだカニ!スマイル見れっカニ!」 「・・・。高校行っても卓球続けるの?」 振り返ってニッと笑うペコの笑顔は昔と変わらない。 それを無表情で見つめるスマイルも。 「あったりまえじゃんすか!俺の夢はっ・・・」 「“卓球でてっぺん取る”でしょ?知ってるよ。昔から聞いてるから」 「〜知ってんなら聞くな」 ボンタンアメいる?と聞くペコにスマイルは首を振って答えた。 「ほか」 防波堤の上を潮の香りが駆け抜ける。 波も雲もカモメの飛ぶ位置さえも昔と同じに見える。 此処に来るとペコは必ず何か叫ぶし スマイルはずっと海の向こうと手元を見ていた。 「お主は?スマイル」 「何が?」 「〜卓球だっつーの。卓球!やっぱやんのかね?卓球」 シェイクでラケットを持つように右手を突き出す。 「わかんない」 「ほか」 ペコはまたニッと笑って手を引っ込めた。 「おめぇもやりゃぁインハイ行けんよきっと」 飛行機雲が風に流されていく。 「無理だよ僕は」 防波堤の上を歩き出したペコに少し間を置いてからスマイルが立ち上がる。 ゆっくり前を行く背中を追いかけた。 「なら見てれ。おいらがてっぺんとるかんよ!」 くるりと振り向いて取ったポーズは子供の頃いつもスマイルを助けたヒーローのポーズ。 「うん。ペコなら取れるよ」 『ピンポン星からやってきた!』 『完全無敵のピンポン星人!』 「高校決めた?」 「うーんにゃ。決めた?」 「まだ」 受験目前の冬の海 「アクマは海王だって」 「ふぅん」 てっぺん目指して突っ走るペコ ペコを追いかけるアクマ そんな二人を少し離れた処から見るスマイル 皆焦りだす年末のある日曜日 「うし!タムラ行こうぜ!きっといんよアクマの奴」 「・・・勉強は?」 end ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2003年某日 |