目眩


欄干の上を怖いと思った事がない

いつから此が習慣になったかなんて覚えてない






右足で思い切り踏み切って宙へ飛び出す

唯一瞬だけ味わえる感覚に笑みを向けて

後はそのまま、重力に引っ張られるまま落ちていく
冷たい水の底へ





叫ぶ度にゴボゴボと昇る泡の玉

目の前を通り過ぎる其れに手を伸ばしてもするりと指の間を抜けて

触ることさえ出来ずに外の世界に消えていく





呼吸の意味を忘れる空間に落ちていく

頭の中を埋め尽くしていた物が泡の玉になって消える






不快な記憶が流されて軽くなった自分が外の世界に浮かんでいく

呼吸が意味をなす世界でいつもスマイルが待っていた









「大丈夫かーポコさーん?」


顔を上げたペコに橋の上でカブがおぉいと叫んでいた。


「へっへっへっ。見たかカブ!!おいら飛んだぜっ!!」








目眩がする








「だからまた始めりゃ良いじゃん?卓球」

煙草に火をつけるペコの横顔にカブが言う。

「捨てらんないんでしょ?結局」





捨てらんない





「もー手遅れよ。うん。もー勝てねぇの俺」

ふぅんと鼻を鳴らすカブにもう一度。


「でも昔は強かったのよ 俺様」





そう
昔はアクマなんか目じゃなかったよ





「あー…じゃああれか…」




放たれる言葉を脳に送るまいと耳を覆う




「周りの奴らに追い越された、と」










アクマもスマイルも
いつの間にかおいらに追いついて
追い抜いた
でも…
でも…








「ちげーよ。俺が唯弱くなっただけっ」







最悪の現実に
言い訳して
泣いて
飛び込んで
逃げる



逃げて逃げて辿り着いた先からまた…





「ふぅん…でもさぁポコさん それじゃぁ…」







言うな





目眩がする










「――――――?」







目眩がする








昇る泡の玉は「出ていく」のではなく「吐き出す」もので

其れに気付こうとしなかった自分は未だ水の底








「そーかもね」








顔を上げてももうそこに スマイルは待ってはいない










END?

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2003年某日
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