蝉時雨 懸命に啼け 命短し


「よお。早かったな」

半年近く会っていなかった者に対してのやや不適当な挨拶が縁側から聞こえた。
化野が内輪を片手にひらひらと手招きをしていた。

「あぁ。ちょうどこの近くにいたからな」

それを確認してギンコは縁側へ回る。
背中の木箱がカタカタと音を立てた。

「ちょうど氷を削ったところでな。喰うか?」
「ガキだな」
「こう暑くちゃかなわん。それに今年は熱夏だからな。ぶっ倒れて運ばれてくる者も少なくない」

炎天下に蝉が鳴いている。

「…そのための氷か?」

呆れたとでも言うように眉をひそめて化野の横に座った。

「看る方がぶっ倒れちゃ元も子もないだろ」

にしても暑い、と呟いて化野が奥へと引っ込んだ。
村の子が川辺ではしゃぐ声が聞こえる。
入道雲に向けていた目を庭に戻した。
前回の訪問時には無かった木が花をつけていた。

「治療の礼だとか言って植えてったやつだ。今頃花が咲くんだな」

ギンコに氷の椀をわたしてその横に腰を下ろす

「あちぃ…」
「で?今度は何だ?」
「何が」
「どうせまた変なモン見つけたんだろ」

ギンコが倉の方を見やって言った。
仮にも蟲師の発した言葉に少し返答が遅れたが、いや、と肩を竦める。

「残念ながらここ最近そういモンのつてが無くてな」
「?」
「定期的に会わんと葬式も開けんだろう」


木にとまっていた蝉が一鳴きしてポトリと落ちた。


化野の言葉を理解してほぉと頷く。
知り合いの蟲師が死んだとかいうのをつい最近聞いた。

「喪主がお前じゃなんだかな」
「無縁仏にならんだけ良いと思え」


天寿を全うした蝉に蟻が列を作り始めていた。



「先生―っ!!大変だよ!イノリが倒れた!」
「早く来て!」

溜息をついて腰を上げる化野に続いてギンコも木箱を手に取った。

「ご苦労だな先生」
「俺の氷が…」

庭から出ると一層暑さが増した。
夏だな、とギンコは無意味に呟いた。

「おい!たまには書簡の一つや二つよこせよ!」

後方で子供に引っ張られながら叫ぶ声を聞く。

返事のかわりに葉巻の煙を燻らせた。




「あちぃ…」



end


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暑中見舞い申し上げ候。
2003年某日

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