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歌姫? 「そーいやあの歌姫、元気かね?」 小さな修理工場で止まらなくなった愛車のワイパーを眺めてふと呟いた。 「歌姫ぇ?何?今度はどっかのバーの歌い手ちゃんでも引っ掛けたの?」 丈治も左右に振れるワイパーを目で追いながら言った。 「俺が引っ掛けんじゃなくて向こうが引っ掛かるの。そーじゃなくて、NAOMIだよ、NAOMI。この前の事件の」 「はぁ?ナオミねぇ。えっ?!もしかしてそのコ本物の芸能人ってやつ?!オイオイ紹介しろよマイク〜」 頭に残るあのウタは 真夜中の夢の破片?それとも抉り取られた記憶のカケラ? 今度こそしっかり金払えよ!と叫ぶ丈治と愛車を置いて修理場をあとにする。 その足で向かった古着屋や茶店の連中も、アカネもみるくもみんなNAOMIを覚えていなかった。 知ってすらいなかった。 「NAOMIのこったらノブさんでしょ」 そう言って向かった先のノブさんも 「知らねぇな」 そう一言言って奥に消えていった。 その後姿を眺めながら内ポケットからタバコを取り出し、適当に選んできたジッポーで火をつけた。 「――――なんだかな」 自分は確かにNAOMIと逢った。 確かに用件を聞き 確かに話をして 確かにあいつの歌を聞いた 重く意味を持ったあの歌詞を 「あ〜中村橋のおっちゃん・・・」 『磯村屋っていう焼きそば屋、めっちゃうまいで』 けれど磯村屋にいたのは五月蝿そうなおばちゃん一人で、あの陽気なクイズのおっちゃんはいなかた。 あの日割った窓も、おっちゃんがややこしい地図を書いた長細い紙も消えていた。 「・・・・」 『なぁ濱ちゃん。・・・ありがと』 あれは何処の物語? あれはいつの物語? リアルな唄を求めて人を殺した女の 空想の世界で起きた物語? 『・・・本当に殺したのか?』 『・・・わからん。でも一度でもそう望んだのは本当や』 霧の立ち込める荒れ野に続くあの扉の中も唯の機械音の響く機械室で 助けてくれた郵便屋さんも、NAOMIを追っていた刑事も 何処に行ったのか 実在したのか もうわからない 『濱ちゃん・・・あたしほんまに殺したんかな・・・』 「よう覚えてないんよ・・・。だからもう一回頼むわ』 『あたしが殺した男の死体を捜して欲しいん』 かつて歌姫と呼ばれた少女の記憶 今となっては唯一人 唯一人の男の中の物語 だけどそれもいつかは消える 誰も語り継ぐことは無い物語 「あ〜やっぱいいわこの曲」 「なんだアカネこんな古いのよく知ってんな」 「いい音楽はねぇ簡単に時代を超えるの」 「おっアカネちゃん今良いこと言った!流石俺の妹!言うことが違うねぇやっぱ」 end? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2003年某日 |