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纏わる様な湿った気の中を、荷車の車輪が小石に躓きながら進む。荷の様子を振り返る氷売りの額には、じとりと汗が浮いている。日は顔を出しては居らずとも、熱を孕んだ気にこうも纏わりつかれては氷も耐えられずに汗を掻く。車の後を点点と追いかける黒い跡を見遣って、諦めた様な溜息を吐いた。 「せんせー!八一せんせー!こおりー!」 少しばかり乱暴に引いた戸の中は、相も変わらずひっそりとして、一寸留守かと間違う程だ。暫くして奥の何処からともなく、やや間延びした家主の声がやってくる。何時もの如く屋敷の裏へ荷車を回して漸く家主の姿が見えた。 「今日んのは前のやつより酷いよ、代は少し負けとく。」 「ええよ、此れだけあれば十分。」 「医者ってのも大変だな。」 云われた八一はそうでもないと笑って、車から滴る氷を降ろした。 暗い雨雲がべったりと空に張り付いた儘、忙しく流されて行く。 ひんやりとした蔵へ溶けかけた氷を仕舞いこんで、誘われる儘縁側へ回ると、青年には耳慣れぬ犬の鳴き声が二人を出迎えた。 「豆柴やと思うんやけど、朝からおってね。」 犬は縁側の下へ腹ばいになって潜り込んで、彼らを見上げて啼いた。八一は其れを追い払おうともせず、腰を下ろし、氷売りに坐を勧め茶器を差し出す。氷売りは笑って、豆柴の湿った鼻先を突付いた。 「あー、夕立が来るなこりゃ。」 迷いの犬は忙しい灰の空に向かって、雨を乞う様に一声吼えた。 |