100色パレット


一連の行動を、飽きることなく眺めていた。
ファンデーション、パウダー、チーク
ビューラーにてその長い睫毛をカールさせ、アイシャドウ、ライナー、そしてマスカラ

淡いピンク色の口紅を塗った後、その上にゴールドのグロス。
その先が離れたとたん、光を放ってぷるん、と揺れた。

思わず奪ってしまいたくなる唇、つまりはそういうこと。

「さっきから、なにじぃっと見つめているの?」
「ん?よく、そんな飽きずに時間かけてやるなぁ、って・・・。」
「あら、お化粧は女の子の特権よ?はるかだって女の子なんだから、もっとそこらへんを・・・」

始まってしまったみちるのお小言。でもそれを止める術を知らない僕ではない。
とはいえ、いつもならばまるで化粧に興味も示さない僕も、
化粧を好む彼女には興味を持った。

「化粧をしているみちるは、キャンバスに向かっているときのみちると似ているよ。」

んもう、人の話聞いているの?と頬を膨らましつつも、この話題は嫌いではないらしい。

「そうね、同じようなものかもしれないわ。
 わたしというキャンバスに、色を添えていくの。絵を描くのと同じくらいとは言わないけれど・・・
 でも、どうしたら綺麗な色が乗るか、とか・・・そういうこと考えながらお化粧するの。」

お洋服だって、おんなじよ。
と、彼女は言った。
本日の彼女の服装は、大きな薔薇の模様があしらわれたワンピース。
大量の靴箱の中から選び出されたものは、これまた足先に大きな薔薇ののった細く、高めのヒールの黒いミュール。
豊かな髪は上に結い上げられ、帽子と日傘はいらない。
本日は、僕がお嬢様をお送りするのだから。

アクセサリーは、控えめに飾り気のない指輪を右の薬指に一つと、小さなパールのピアス。
首にはスカーフを巻くから、ネックレスはいらない。

お化粧、洋服、アクセサリー・・・
どれもこれも、試行錯誤をめぐらせながら選び出し身に付けていくのは、女の子の特権。
街を歩くことは、いわばファッションショーのようなもの。
彼女は耳にたこができるくらい言っている。
苦笑しながらも、でもモデルのバイト経験もあるせつなはこの話題に興味ないことは全くなく、
またほたるもお年頃なのか(そう言ってしまうと少し寂しいけれど)、興味津々に話しを聞き入る。

「さて・・・と、そろそろ出なきゃいけない時間よね。」

本日の彼女も完璧。さながら、ショーウィンドウに飾られる西洋風の高級感漂うお人形。
汚れないよう、硝子ケースに入れて大事に飾られるべきの

そう、僕だけの硝子ケースに飾っておきたい

なんて

「はるか、ごめんね折角の休日なのに・・・」
「いや、気にしないで。それに、元はといえば僕が言い出したことなんだから。」

今彼女が街を歩けば、きっと街中の視線を惜しみなくその身に浴びることだろう。
それくらい、いやそれ以上に輝いている。

「まぁ・・・そんなに綺麗に変身しちゃうと、隣にいる身としてはやっぱりあれ・・・かな。」

ちょっとだけ、自信をなくしてみたりして。

美しく高級なお姫様の隣にあるべきは、やはり同じく美しい王子様

「あら・・・どうしたの?めずらしい・・・」
「僕にだってそういうおセンチな時ぐらいあるさ。」
「じゃあ、今度はわたしがめ一杯素敵に変身させて差し上げましょうか?」
「遠慮しておくよ。」

苦笑しながら、車のキーをとった。

すると、するりと逆の腕に巻きつく白く細い腕。

「どんなに綺麗に変身しても、変身前の姿を知っているのは、あなただけの特権なのよ?」

にやり、といたずらっぽく笑って見せた。
・・・ふぅん、と負けずにキザな笑みを浮かべてみせる。

「天才ヴァイオリニスト及び画家が料理しているところとか。」
「まぁ、そうよね。」
「洗濯物干している姿とか。」
「普通は想像できないことかしら。」
「そこらへんはほたるとせつなも知っているしな。」
「あら、ご不満?」

もちろん。
他の誰もが知らない僕だけの、特権が欲しい。

「あ、実は幼い寝顔とか。」
「そ、それは・・・。」
「まぁでもやっぱり、僕としてはベッドの中の君、ってとこ・・・あいててっ!」
「ばかっ!」

言い終わる前に耳たぶをきゅうっとつねられ腕を振り解かれ、ぷりぷり怒りながら早歩きで先へと歩いていく。

「じょ、冗談だって冗談!」

なんて言いつつも、こういう特権って、すごく悪くないものだと思われる。
こうやって怒らせたり拗ねらせたりする特権も、あるのだろうか。

とりあえず、追いついたらその愛らしい唇に噛み付いてやろう

と、密かに思い、実行すべく追いかけた。

これは甘い甘い、僕だけの特権。






りえっこさまより、甘いはるみち小説とのリクエストをいただきました。
甘く・・・なりきれた・・・のか!?(いつもの問い掛け)
お化粧ネタは、こう自分が化粧してるときに思いつきました。
とはいえわたしはチークやパウダーは使わないので、そこらへん違っていたらすみません(汗)
化粧の順序も人それぞれですしねー。個人的にメーカーはT'ESTIMOがお気に入り。
マニキュアならアナスイとか適当に。化粧水、乳液はALBION。うーん、誰も聞いてませんね!(滝汗)

というわけでお待たせしました、受け取っていただければ幸いです!
りえっこさま以外の方は、例によってもちろんお持ち帰り禁止です。


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