アイサイト・エラー


「・・・なんで僕なの?」
「なんでって、そう警戒しないでくれよ。」

苦笑する。
いや、どうしたって裏があるとしか思えない。

「ただ、デュエットしてほしいって頼んでるんだ。君のピアノで。」
「デュエットなら、みちるに頼めばいいだろ。」
「残念、みちるさんには夜天がラブコール中。」

そういえば、言ってたっけ。
あの音楽祭で、可愛らしくも頬染めて、「ファンです」なーんて。

・・・まてよ

「なに、てことは、お前達一人一人で歌うってこと?」
「なんだよ、おかしい?」
「いや・・・。」

いつも三人一緒なものだとばかり思っていたから。
そう思案していると、それを見透かしたのか

「生憎君たち二人みたいに、僕達はいつも三人一緒っていうわけじゃありませんから。」

にやり、と意地悪く笑うものだから、少しカチンときた。

「わかったよ、引き受けてやるからありがたく思うんだな。」
「おぉ、サーンキュっ!我らが姫のご所望でね、まぁ感謝させてもらうよ。」
「姫・・・っていうと、火球皇女が?」
「ああ。月にいたとき、お前ピアノ弾いたことあるだろ。まぁ、前世じゃあピアノなんて言い方しなかっただろうけど。」

月・・・ああ、たしか
プリンセスの聖誕祭で、ネプチューンの伴奏として弾いたかもしれない。
とすれば・・・

「夜天も、そのクチか?」
「ご明察・・・ってわけじゃないけど、まぁそんな感じだな。プリンセスに至っては、お前達二人の演奏に心酔していたもんだから、
 今回のことを聞いたらさぞお喜びになるだろうな。」

と、風に乗ってバイオリンの音が流れ出した。
その旋律にそって、細く繊細な唄が紡ぎ出されていく。
俗に言う音合わせだろうけれど、それだけで聴く人の心震わせる音色。
はじまったな、と薄く笑う。
瞼を閉じて、風に身をまかせ音色を五感で感じとる。

「・・・僕は、こんなにも情緒豊かに奏でることはできない。」

彼女のバイオリンがあるからこそ、荒々しい鍵盤の音はああにまで優しくなれる。

「俺は、その荒々しさが気に入ったんだよ。」

ふと、瞼をあけて彼を見れば、
射抜くようなまっすぐな瞳で、こちらを貫いてくる。
決して見逃すことはできない。全てを見透かされる。
こちらの瞳が揺らいだことさえ、彼にはお見通しなのだろう。

「俺の声も、夜天の繊細な声に比べれば大分太くて固い。
 夜天の繊細さと細さ、大気の柔らかさ、で、俺のそれでスリーライツはいいポイントを保ってるのさ。」

だから同じなんだよと言って、彼は瞼を閉じた。
風はそよぎ、カーテンは揺れる。木漏れ日が窓から差し込む。
流れ出る音色。果たして家の傍を歩く何人が立ち止まり、その音に酔いしれるだろう。

向こうが、情緒的に訴えてくるのならば

「・・・だったら、僕達はクールに、ドライに行けばいい。そういうことだろ?」

すると彼は満足気に、

「そういうこと。」

と、笑った。






「ああ、そうそう。お披露目のときの服装はだな・・・」
「スーツかタキシードとか形式ばった物っていうのか?勘弁してくれ。」
「バァカ、お前曲がりなりにも女だろ!?んな男モン着てどうするんだよ!ドレスとかそういうモン着ろ!
 そうだなぁ・・・スリットたっぷりはいったイブニングドレスとか・・・って!!」
「お前こそ馬鹿か!僕がそんなもん着るわけないだろ!まだスーツかタキシードのほうがマシだ!」

荒々しくグランドピアノの蓋を開ける。
さっさと歌ってみろ、と促す。
手厳しーの、とぶちぶち文句を言いつつ、発声を整える。
僕は弾かない。まず彼の音を聞いてから、少しずつ色を付けようと、そう思ったからだ。

けれど、それはなんと安易な考えであったことか





―――――――――・・・!!――――




その半端ない、その身から溢れ出るほどの才能をというものを嫌というほどこの目で見てきたが

少し低いアルト。
けれど、どこまでも響く。のびやかに、空へ吸い込まれていくように。
夜天とは違う。
みちるとも違う。
確かに繊細ではない。むしろ、圧倒的な存在感を誇る
綺麗に静かに綴られるものでなく、荒々しくも、確かなる自分を主張している。

けれども、不快ではない。むしろ心地よい。

なんと表現したらよいのか。
彼女なら、きっとよい言葉をみつけることができるだろうが、僕には到底無理な話だった。


「・・・なんで弾かないんだよ。」
「あ、ああ・・・。」

不意に、現実に引き戻された。

「はっはぁん、さてはお前、俺の歌声に聞き惚れてたんだろ。」
「・・!!」

そうと認めてしまうのが、なんだが悔しくて
つい、おざなりに答えてしまう。

「そうならそうと認めればいいのに、まったく、頑固なヤツ。」

けれども結局隠し切れておらず、悪戯な笑みを返されるばかり。
ああ腹が立つ。
一瞬でも素晴らしいと思ってしまった自分にも。

「・・・みてろ、それに見合う、それ以上の演奏で返してやる・・・!」

そう心の誓いが、図らずしも外に漏れてしまう。
ああ、楽しみにしているぜ、と一際高く笑い声をあげた。






その夜、
星野と夜天を見送ったあと、彼女にある相談を持ちかけた。

「・・・深いスリットの入ったイブニングドレス・・・?
 それはあるけれど・・・あなた、一体何に使うおつもり?」

奴を驚かせる要素には、演奏だけでは足りない。
全てを持って、その想像を超えてやる。






ゆっけさまより、星はる小説とのリクエストをいただきました。
・・・・・・(いつもの問い掛け中)
「嫉妬系でも、ラブラブ系でも、なんでもいいです」ととてもお優しいお言葉を頂いたにも関わらず・・・
しかーも、なんか夜みち風味でもある・・・みたいなね・・・(ぉーぃ)
個人的には・・・結構気に入っている出来なんですが・・・
く、苦情、受け付けてますから・・・!!!!!

というわけでお待たせしました、受け取っていただければ幸いです!
ゆっけさま以外の方は、例によってもちろんお持ち帰り禁止です。


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