空にかけ水


「あ、いたいた。おーい、みち・・・わっ!!!」
「ぁ・・・っと、ごめんなさい、はるか。かかった?」

サァァ、と晴れた空にシャワー。
無論、雨なわけではない。

「思いっきり、ね。」
「すぐにふかないと・・・タオルとってくるわね。」
「いいって、この暑さだからすぐに乾くさ。それより・・・。」

まわりを見渡すと、葉より無数に滴り落ちる雫。

「水やりは夕方にしたんじゃなかったの?どうせやってもすぐ蒸発するって・・・」
「ええ、そうなんだけど・・・あまりにも、暑そうだったから。」

きっと植物だってこういう日は過分に喉が渇くものよ、と笑った。

彼女のお気に入りな白いワンピースに、白い帽子。
最も後者は僕からのプレゼントなのだけれども。
二つとも、とてもよく似合っている。

手を緩め、少し離れた蛇口の元へ歩み寄り、左側にひねる。
きゅうぅ、とホースが鳴く音がした。もう少しこの涼しさで潤っていたかった、ということだろうか。

「それで、なぁにはるか。なにか話があって私を探していたんでしょう?」
「ご名答。旅行の話さ。四人でどこ行こうって。」
「あら、だったらほたると決めればいいわ。あの子が行きたいって言い出したんだし、
 ほたるが行きたいところならわたしはどこでも・・・」
「と、思いきや」

貸して、と彼女の手からホースを奪う。
終わったのよ?といぶかしげな声の問に、まだ水を欲しがっている子がいるよ、と背の高い木を指差した。
みちるは背が低いからね。
そう言うと、失礼な人ね、と頬をふくらました。

「お姫様は、『みんなが行きたいところならどこでもいい。』と仰せになりました。」
「あら、じゃあせつな女王は?」
「女王から、『折角だからあなたたち二人で決めてください。ろくに、旅行も行っていなかったのでしょう?』との勅命を承りました。」
「もう、なんだかんだいってみんなどこでもいいんじゃないの。」

そういって、彼女は苦笑した。
無論、僕も彼女も、あの二人も、
四人で過ごせればどこだってきっと楽しい。
そういうことなのだ。
ならば、と彼女は気合をいれて思考を巡らせ始める。

「夏だものね・・・なにか、夏らしい風情を感じられるところとかいいかもしれないわ。
 昼は広い高原や野原で太陽の光をいっぱい浴びて、夜は川原で屋敷舟を貸りて花火大会とか・・・
 でも北海道や軽井沢なんていう、避暑地に行って緑を満喫するのもよさそうだし・・・」

なんだかんだどこでもいいと言っておきながら、このお嬢様のご希望は盛りだくさん。
決まるまで相当時間がかかりそうだ。お天道様も傾いてしまう。
彼女の頭も植物達も、茹ってしまうのは時間の問題だろう。
一度止めていた蛇口をもう一度右にひねり、ホースの先端を手に持って、

閃いた

「みちるっ!」

名を突然呼ばれ、旅行でいっぱいだった彼女の思考は強制的に中断させられ

「ぇ・・・きゃっ!!」

ぱっしゃあん、と思いっきり水をかぶる。
一瞬何が起こったのか理解できないふうだが、だんだんと頬が染まって

「んもう、はるか!」
「あっははは、おあいこさまさ!」
「これがやりたくて、ホースをとったのね!人が真剣に考えているのに、もう・・・
 ワンピースが台無しだわ!」
「あはは、ごめんごめん!考えはじめてみちるの頭がゆだっちゃわないように、冷ましてあげようと思ったんだ。」
「冷ましてって・・・あ、そうだわ!はるか、海にしましょう!」


「・・・へ?」

予想外で突然の反応に、つい間抜けな声をもらしてしまう。
そんな風を気にも留めず、めずらしく彼女はまくし立てる。

「思えば、しばらく海で泳いでいないもの・・・プールもいいけれど、やはりわたしとしては海よね!
 ちびうさぎちゃんを誘っていくのもいいかもしれないわ。もしかしたらうさぎ達も来るかもしれないけれど、
 それはそれで大人数でも楽しそうだもの!早速ほたるやせつなにも言ってみなくちゃ!」

言うだけ言って、僕の意見を求めずくるりと背を向ける。
急いでサンダルを脱ぎ(とはいっても几帳面な彼女のこと、きちんとサンダルの向きを180度揃えて変えていたが)屋内へと慌ただしく入っていく。
その慌ただしさを受けて、風がひらり、と彼女の帽子をさらった。
あ、と振り向く。
帽子はふわりと、僕の手に止まった。

「いいから、いってきなよ。」

そう言わなかったところで、きっと彼女の衝動は止まらない。
ごめんなさい、と彼女は困ったように、でも嬉しそうに笑ってぱたぱた駆けていった。

やれやれとしゃがんで、帽子を頭にのせてみる。
じんわりと湿ったそれは、僕の茹だった頭を冷やすのには効果てきめんだった。
余計なのは、僕の心まで少し切なくさせた、ということ。

「あー、可哀相な僕・・・。」

そんな僕を慰めるかのように、水にぬれ、涼しげな木々が優しく風にそよぎ、
さわさわと優しい音を鳴らした。

この暑さは、まだ止みそうにない。






カカシタロウさまより、はるみち小説とのリクエストをいただきました。
今は夏、ということで、その風味もからめてみたり。
涼しげでかわいい二人、を目指した・・・はず・・・ですが・・・
ラブ要素は・・・?うーん、わたしの小説っていっつもこうですよね(苦笑)
それでもはるみちなんです!と言い張りたいわたし。ふたりが笑いあっている図がとても好きです。

というわけでお待たせしました、受け取っていただければ幸いです!
カカシタロウさま以外の方は、例によってもちろんお持ち帰り禁止です。


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