あこるでぃおん


二重になっている重い扉を一つずつ開いた。
主のいないその部屋には
グランドピアノと譜面台が置き去りに。

再びここで主に手により楽が奏でられるのは
一ヶ月先のこと。

僕の心に彩りが戻るのも、一ヶ月先。

傍にいてくれる人がいてくれるということが、
前に比べて大分寂しさが紛れているのは確かで

でも、朝起きて手を伸ばしたその先に
感じられる喪失感はいつまでたっても消えやしない。

君のぬくもりが、そこにはない。

そっと閉じている蓋を開けて
右手の人差し指で、キィにそっと触れてみた。

ポーーー・・・ン、と渇いた音が響く。

人差し指、薬指、親指、中指、小指
左手を添えて、小指、人差し指、中指、親指、薬指・・・

気晴らしにと買ってみた、とあるアルバムの一曲目に入っていた

歌詞が、何だか


閑散としていた部屋に、
飛び交いだす音符たち

この曲の歌い手ほど高い声も出ず、上手でもないけれど


あこるでぃおん  親指の間をしゅるりしゅるりほどけてくように

あこるでぃおん  あどけない手つき、で 僕の想いほどいて




「・・・はるかパパ・・・?」

いつのまにか、扉の向こうから控えめに覗かせている
愛らしいその仕草に、ふっと笑みがもれた。

「ほたる?何、ごはん?」
「うん、そう。
 ・・・そっち行ってもいい?」
「いいよ、おいで。」

とたとた走って、彼女にはまだ背の高いピアノの椅子によじ登る。
小さな右手の人差し指で、控えめに鳴らす。

ポーーー・・・ン

「今日のゴハン当番はせつなだったね。
 何が出るのか、楽しみだな。」
「ほたるも少し、手伝ったよ?」
「お、それじゃあますます楽しみだな。」


「はるかパパ・・・」
「ん?」
「・・・さびしい?」

心配そうな大きな瞳で見つめてくる。

「・・・大丈夫、ほたるとせつながいるからね。」

豊かな黒髪を撫で、抱き上げて立ち上がる。
小さな手で、僕の頭を撫でてくれた。

左手で、そっと蓋を閉じた。





同名の曲からインスピレーション受けました。
聞いてて、これはみちるさんの帰りをけなげに待つはるかだ!!
間違いない!!とか勝手に思って(苦笑)
途中、歌詞を出していたのですが、まずいかなとか思って隠しています。
反転させたらでてきますよ。
お暇な方は探してみてください。


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