「みちる・・・」


己以外の存在を、感じさせない白い部屋。



「   」



つぶやきは、吐息に溶けて消えた。




letters






確かに、言った。


「書いたとおりに帰ってこれないならさ、
 書かなくてもいいから。」


置手紙。
僕がいないときに急に予定が決まってしまう君は
律儀にも、きちんと僕宛に手紙をしたため机において、出て行く。


内容通りの時間で戻ってくることは、なかったけれど。
今か今か、今日かと待ち焦がれる僕としては、それはとても寂しいことであった。


日にちが決まっているよりも、
そしてそれが覆されるよりも、
いつ帰ってくるかわからぬまま、今か今かと待ち焦がれる自分のほうが、
まだ耐えられると思ったんだ。





手紙は、なかった。





その代わり、何もなかった机の上には、アイリスの花が一輪飾られていて。





ああ、早く帰っておいで。
早く、僕の元へ帰っておいでよ。


一緒に、この花に名前をつけるために。















ぼんやりと、街中を歩いた。
あの部屋に独りでいることは、なんだか
椅子も、テーブルも、カップからソーサー、なにからなにまで
二人のために、二人で揃えたものだから。


彼女がいなくなって何日目、とか
今日が何月何日の何曜日かとか、

そんなの全く、今の僕には必要なくて、
そう、今必要なのは君だけなのに。


手紙なんて、いらないと思っていた。


浮き足立ちながら君を待つ自分は、とてもかっこわるく情けないと思っていた。



だけど、やっぱり



手紙から香る君を
何でもいい、ただ君という存在の証明を
僕の元へ必ず戻ってくる証明を
求めている僕がいる。



立ち寄った書店で、何気なく
一輪挿しにしてあった、あの可憐な花を思い出して、花の本を探す。
アイリス。
恋のメッセージ。



帰ろう。
君と僕の場所。
君がいない今、僕が守らなければ。
君が帰ってきたときに、一番最初に「おかえり」と言うのは、僕で在るために。






でも、ああ、玄関のその場所には


見慣れた、そう靴が。






「あら、おかえりなさい。」






聞き慣れた、その声が。





「どこへ行っていたの、もう夕方よ?」




鼻歌まじりに台所に立つ君。
小刻みに腕を動かす。


「・・・君、こそ・・・。
 何も言わずに、どこへ行っていたんだよ・・・?」
「あら・・・。」


くすり、と笑って振り向いた。


「伝言なら、残したわよ?」
「『恋のメッセージ』・・・?」
「あら、そんな花言葉もあったの?」


間違えではなけれどね、と心底うれしそうに微笑んだ。


「あなたが知っていただなんて、驚いたわ。」
「偶然だよ、たまたま本屋で読んだんだ。」
「まぁ、本屋に行っていたの?」
「いや、それもたまたまで・・・ただ、散歩していただけさ・・・。」


そっと、手のひらを包まれる。


「外、寒かったでしょう?こんなに手が冷たいわ。」
「でも、みちるが暖めてくれるんだろ?」


ただ微笑んで、ゆっくりとこすりあわせてくれて、
ほら、もうこんなにも 暖かいよ。


「やっぱり・・・ほしいな。」
「え?」
「いや・・・。」


手紙。


「・・・ええ。」


「今日は、あなたの誕生日だから・・・不安な気持ちにさせたくはなかったんだけど・・・
 でも、よかった・・・。」


あの花の意味を、わかってくれて。


「ああ、そうか・・・今日は・・・そうだったね。」
「自分の生まれた日を、忘れないで頂戴。
 なにがあっても、あなたが生まれた、何よりも尊い日なんだから・・・。」


困ったように笑う君をみて、少しだけ、本当にこの日は尊いものなのかな、と。
君がいるから、この日は意味を持つんだよ。


「じゃあ、始めましょうか。」
「何を?」
「あなたの、誕生日パーティー。
 二人だけで、わたしにあなたを祝わせて頂戴。」


ほら、とシャンパンを取り出す。


「HAPPY・・・BIRTHDAY!!」


頬に、キスをくれる。


「・・・Thank You・・・。」


そういって返すのは、君の唇へ。




君が、またその美しい筆跡を残してどこかへいなくなってしまっても


たった、一言


僕の元へ帰ってくると


それならば、僕も送り続けよう


この世界のどこに在っても、


君に送り続けよう


Tell me that you’ll never ever leave me
Then you go ahead and leave me
What the hell is going on
Tell me that you really really love me
Then you go ahead and leave me
How the hell do I go on


「必ず帰ります。」


その言葉だけで、十分なんだから。


「おかえり。」
「ただいま。そして、おかえりなさい。」
「・・・ただいま、帰りました。」

















「ところで、どこへ行っていたの?」
「あら、当たり前じゃない。お買い物よ、今日この日この時のための。
 はるかと一緒じゃ、なんだかわかってしまうでしょ?驚かせたかったのだもの。」
「そっか。」
「あなたのことだから、きっと今日が何の日か忘れてるだろうと思ったしね。」
「・・・。」





年が明けて、ようやく第一弾、だなんて・・・
しかも、なんというか、はるかさんハッピーバースデー小説書く!と意気込んではや一週間。
もう過ぎましたが・・・?となるわけで・・・いや、申し訳ございません・・・
知っている人にはわかると思いますが、モチーフは宇多田ヒカルさんのlettersという曲です。
でも、展開はちょっと違いますけども。
とにかく、二人にはハッピーハッピーにいってほしかっただけなんです・・・。
と、いうわけでここにはるかさんへのお誕生日小説でした。
はるかさん、お誕生日おめでとう!!


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