もしも世界中が敵にまわったなら

アオゾラ。



ザァっと風が流れた。
木々が揺らめき、花びらが散り葉が散り

思わず、振り返った。



「今日は、雨かしら・・・。」


ふと、こぼした言葉も風にさらわれる。
風の向かう方向に髪が揺れる。
あまりの激しさに、思わず手で押さえつけた。


そういえば、最近めっきりと春めいて
こんな荒れた天気模様は久々であるような気がする。

青く澄んだ空も、すっかり灰色の雲に覆われて
まだ昼間だというのに、薄暗い。


ああ、でも



嫌いではない。







家では、こんな天気になってしまったことで、可愛い可愛い愛娘がしょげているころだろうか。
そう思うと、思わず笑みがこぼれた。



そんなことはないわ。
今日の私は、とてもごきげんよ。


そういって頭をなでて、抱きしめてあげたいけれど。

今家に帰ると、それこそ彼女のご機嫌を損ねてしまいそうだ。


気ままにCD屋へ行ったり、本屋を覗いたり
お昼はなかなかお洒落なカフェを見つけて軽く食事をし、今度はあの人も連れてきてみようと思ってみたり


「少し、肌寒くなってきたかしら・・・。」


あらかじめ鞄に忍ばせてきたショールをはおった。
うん、これで少しは暖かい。




何故だろう、こんなにも憂鬱にさせてしまうような空模様なのに
わたしには、とてもちょうどいい。




ザァァっと、流れる。





この世界。
もしも、世界中がわたしの敵にまわったなら?





それならば、敵であるこの世界を、わたしは守る。





だって、この世界には





あなたが、いるのだから。





そう誓いを立てたのは、いつのことであったか。

わたしは、心の叫びを音に乗せて表現することしか知らないから
声にはださず、ひっそりと奏で続けていたけれど。


でも、今日はこんなお天気のせいか、人通りはとても少ないことだし


・・・ラン

・・・ラン、ラン・・・ラン・・・




少しだけ、口ずさんでみよう。




ラン、ラン、ラン、ラン・・・




雨が、ぽつり、ぽつり・・・
でも、傘なんていらない。

髪の毛をつたって、小さな玉になって落ちる雫が、宝石みたいだ。


足取りも、テンポよく弾んで



向かった、その先の小さな公園に



「どうしたんだ?いやにご機嫌だね。」



あなたがいること、知っていたからよ。



「なんでもないわ。」
「傘、持ってこなかったの?髪の毛、塗れているじゃないか。」
「持ってきているわ。でも、そんなもの必要がなかったのよ。」
「どういうこと?」
「内緒。」



その時手にした感情は、きっとあなたすらわからないものだから。
ヤキモチ妬きさんでしょう?大変だわ。



「ひどいな。」




ちょっとすねたような顔をして、ヘルメットを手渡してくれる。
わたしの色、マリンブルー。




「ありがとう。きっと、あなたもそのうちわかるかもしれなくてよ。」




それまでは、わたしだけの秘密。


「それよりも、準備はもうできて?」
「バッチリさ。もうほたるがうかれちゃってさ。でもその前は、ちょっとしょげてたんだぜ。
 こんな天気なのに、みちるママ一人で追い出しちゃったよ、どうしよう!って。」
「やっぱりね。」
「らしいだろ?もうなだめるの大変だったんだぜ。」
「じゃあ、早く帰って安心させてあげないと。」
「そう、それと大いに感激してくれよ。」
「期待しているわ。」



雨道を走り出す。
今日の空模様は、晴れのち雨。
これ以上にない、灰色の空。

でも、わたしの心の中は


これ以上にない、素敵な青空。
なんて素敵な空模様。
あなたの心をそのまま映したような、綺麗な色をしているわ。



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