eternal Promise



『どうして、ないてるの・・・?』

海辺で、独り涙を流している少女を見つけた。
海と同じ、青緑色をした波立つ髪の毛を頭の高い位置でくくり、
淡いピンク色のワンピースをその身にまとって。

声をかけてきたのは、蜂蜜色の短い髪をもつ少年のような少女。
空と同じ、まっすぐな瞳をこちらにむけて
いそいで、涙をぬぐった。

『わたし、パパもママも、いないの。
 ひとりぼっちなの。
 わたしのおうちは、ここなの。
 わたし、すてごなんだって。
 わたし、ここですてられてたんだって。
 パパとママにすてられたんだって。
 しすたーがいってたわ。
 パパとママのぶんも、わたしがあいしてあげるからねって。』
『うん・・・。』
『でも、そんなあわれみがかったあいなんて、ほしくなんかないわ。
 あそこにいたら、そんなものしかもらえないの。
 そんなもの、いらないわ。
 だから、わたしのおうちはここなのよ。
 きょうからわたしは、ここにすむのよ。』
『・・・・・。』

空は茜色。
震えるくらい、淋しい色。

『うみって、すき。
 わたしのかみと、おなじいろなのよ。』

足を海の中へと進めだす。
慌てて、手を引っ張った。

波に誘われて、海へ足を進めた。
ふいに、後ろから腕を引っ張られた。

『カゼひくよ!』
『そんなこと、ないわよ。』
『そんなことあるよ!みずはつめたいよ!』
『つめたくなんか、ないわ。』
『うそだぁ!だっていまはもうあきだし、ほら、こんなにつめたいじゃないかぁ!』
『つめたくないの。
 わたしはね、うみのこなのよ。
 だから、つめたくなんか、ないの。』

本当だとは、思えなかった。
でも、この少女を見ていると
少女の言っていることが、嘘だとは思えない。

本当のことだった。
不思議と、夏はもちろん、冬に海の中へ足を進めても、ちっとも寒くなんかない。
むしろ、暖かかった。

『わたしはうみのこなのよ。』

ああ、そうかもしれない。
でも、だったら

そう、わたしはうみのこ。
ここでうまれたにちがいない。

『じゃあ、ぼくはかぜのこなんだよ。』
『かぜ?』
『かぜ。』
『どうして?』
『ぼくは、かぜのふくおかですてられてたんだって。
 パパとママにすてられてたって。
 きみと、おんなじなんだよ?』
『うそぉ!!』
『ほんとだよ。しすたーがいってたもん。
 で・・・。』
『・・・”わたしが、あいしてあげる”?』

こくん、とうなずく。
とたんに、とまりかけていた彼女の涙が、いっせいにその大きな瞳に溜まりだす。

こくん、とうなずいた。
ああ、この子もわたしと同じ。

『わたしたち、おんなじだね・・・。』
『うん、おんなじだよ。』
『わたしたち、かわいそうだね・・・。』
『・・・。そんなこと、ないよ。』
『どうして?』

少女の細い腕をつかんでいた小さな手を一度離し、少女の小さな手を握った。

わたしの腕をつかんでいた小さな手を離し、わたしの小さな手を握った。

『きみとぼくは、おんなじ。
 ぼくにはきみがいるし、きみにはぼくがいるよ。
 ぼくはね、いま、きみのことが、だいすきになっちゃった。』

とたんに頬を赤く染める少女。
その頬と同じ色をした、空。

とたんに顔が熱くなった。
繋がれた手から、早くなった鼓動が伝わってしまいそう。

『だからかな。なんだかね、そらがさっきよりも、すごくやさしくみえるんだ。』

仰ぎ見る。
さっきまでとてもとても淋しそうだった茜色は、どこにもいない。
そこにあるのは、とても暖かく優しい、オレンジ色。

『うん、あたたかいね・・・。』

手を、握り返して返されて、お互い微笑んで、二人並んで座り込んだ。

『あなたのても、あったかい・・・。』

潮騒が響く

『しすたーのところに、かえろう。』

風により、海が歌う

『・・・いや。』

どこまでも、どこまでも

『だいじょうぶだよ。
 ぼくがずっといっしょにいるよ。
 ぼくはきみのこと、だいすきだから、ずっといっしょにいたいよ。』

やむことのない、歌声

『だから、かえろうよ。』

安らかに、安らかに眠れ

『・・・わたしも、あなたがだいすき。だから・・・。』

架せられた運命に目覚める、その日まで

『いっしょにいたいから、かえる!!』















フッと、瞼が開いた。
上体を起こして、軽く左右に頭を振る。

「たしか、六つか七つの時だったよな・・・?」

未だこちらの時間軸に追いつかない頭を必死にフル回転させる。
遠い遠い日の、約束。

ずっと、一緒にいよう

「あれからちょうど一年後に、いいとこの養女としてもらわれていっちゃったんだよな・・・。」

今でも覚えている。
シスターに手をひかれながらいやだと泣き叫ぶ少女。
木の陰から、ただ見守るだけの、僕。
必死に、僕に助けを求める少女。
ただ、見守るだけの、僕。

大好きだったから、幸せになってほしかったんだ。
ここではない、どこかで
君が幸せに顔を緩ませて
笑っている顔を、見たかったから。
あそこは、きっとだめだった。

いっしょにいたかったけど。

あそこでは、きっとだめ。

「恨んでる・・・かな、やっぱり・・・。」

ずっと一緒にいようととりつけた約束の輪を、
自ら断ち切った。

そういえば、名前さえ知らなかった。

「もう一度・・・会ってみたいけど・・・。」

自分と会うことで
あの頃の悲しい記憶を思い出させたくはない。
今、どこかで幸せに暮らしているのならば。

会わないほうが、いい。















フッと瞼が開いた。
誰もいない、プールサイド。
知らぬ間に椅子に横になり、眠り込んでいた。

「たしか、六つか七つの時だったかしら・・・?」

未だこちらの時間軸に追いつかない頭を必死にフル回転させる。
遠い遠い日の、約束。

ずっと、一緒にいよう

「あれからちょうど一年後に、今の家に養女としてもらわれていったのよね・・・。」

今でも覚えている。
シスターに手をひかれながらいやだと泣き叫ぶ私。
木の陰から、ただ見守るだけの、あの子。
必死に、助けを求めた私。
ただ、見守るだけの、あの子。

とても、痛々しい顔をして
それは今にも泣き出してしまいそうな
それを必死にこらえているような
なにかを、必死にこらえているような。
きっと、私のことを思って。

いっしょにいたかったけれど

あそこでは、きっとだめ

「どうしているかな、あの子・・・。」

あの子もどこかの家にもらわれ、
幸せに暮らしているだろうか。

そういえば、名前さえ知らなかった。

「もう一度・・・会ってみたいけど・・・。」

自分と会うことで
あの頃の悲しい記憶を思い出させたくはない。
今、どこかで幸せに暮らしているのならば。

会わないほうが、いい。




















断ち切られた約束の輪が、もう一度繋がれるのは

あともう少し。





  はるかとみちるの家族について、あまり記述がなかったので、
  これはわたしのドリームですね。
  みちるさんは、まぁ山の手のお嬢様という設定はありますが・・・
  これはもう、妄想以外の何者でもありませんが、
  とりあえずわたしのはるみち的設定にはこんなのがあるんだぞ、と・・・
  シスターか・・・。
  うちの高校にも山ほどいましたが・・・(理事長も校長もシスターだったし)
  宗教の時間とか、もう睡眠の時間と化してたからな・・・。
  今回の小説は、ちょっと新しい試み。
  二人の思いをそれぞれ順番に書いてみました。   あと、毎回多用していた詩も、今回は使いませんでしたし。
  長編のほうでこれからガンガンつかうので、短編のほうではおさえておくかと
  思った次第にございます・・・


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