やってしまった。
悪い癖がでてしまった。
いや、癖は癖といっても、極悪非道な癖じゃないから、まぁ・・・
なんておもっても、彼女にとっては極悪非道な仕打ちであって・・・
なぁんて、自分に言い訳している場合では、決してなかった。
「はるか様、わたし、うれしいです!!」
隣で、顔を真っ赤にして喜んでいるファンの女の子。
隣で、顔を真っ青にして立ち止まっているF1レーサー。
目の前で、にっこりとこれ以上のない極上の微笑を見せる、少女。
「こちら、差し入れのサンドイッチですの。
もうお昼時ですし?丁度お腹が空腹を訴えることでしょうと思いまして持ってきたのですけれど?」
「え、あ、みちる、ありが・・・」
「でも、そのご様子では、もうお腹もお心もお腹一杯なんでしょうね。
わたくしったら、差し出がましいことを、申し訳ありませんでしたわ。邪魔になってはいけませんもの、持ち帰りますわ。」
「え、いや、あの、み、みちる・・・?」
「失礼いたしますわ、これ以上お邪魔してしまっては、申し訳ありませんもの。」
それじゃ、と。
百万ドルなんてくだらない、一億万ドルとでもいえようか、いや、絶対零度の方が表現が正しいに違いないほどの微笑みを残して。
「はるかパパ・・・。」
「ほたる・・・!」
助かった、これぞ地獄に天使!と手を差し出そうとした瞬間
「べーーーーっっだ!!!」
今度ばかりは、その天使も味方をしてくれないようであった。
テーブルに突っ伏して、午前の出来事を思い出しては溜め息をはく。
となりで、物腰優雅に紅茶を淹れるせつな。
ポットを静かに置いて、静かに、けれど威圧感たっぷりに言い放った。
「100%はるかさんが、悪いですわね。」
「せつなまで・・・。」
「あら、何か違うという理由でもあるのですか?」
「・・・滅相もありません・・・。」
一体これで何度目ですか、とせつなは溜め息をはく。
本当に、何度目だろう・・・っていうか、なんというか・・・
あ〜〜〜・・・
もう少し、大目に見てくれないかなぁ・・・とか思ったりもするんですけれども・・・
「はるかさん、もしもみちるが他の素敵な男性と一緒に食事をしているところを見たら、どんな気持ちになりますか?」
「まさかみちるが僕に黙ってそんなこと・・・。」
ないない、と片手をあげて左右に振ってみせる。
と、めずらしくキツイ目つきで
「はるかさん。」
「・・・。」
同じことでしょう、とでも言いたげな瞳。
「・・・ごめんなさい・・・。」
「その言葉は、わたしではなくてみちるに言ってあげることです。」
はい、と紅茶の入ったカップをすすっと僕の前に移動させてくる。
「・・・そういえば、いつからみちるのこと、呼び捨てするようになったの?
少し前までは僕とおなじく、「さん」付けだったのに・・・。」
せつなの言葉の節々にあった違和感。一口飲んで、思い当たった。
「さて・・・いつからだったかしら・・・。みちるとは、色々なことでよく話をするから、慣れてしまったのかもしれませんね。」
「・・・フゥン。」
「ああ、そうそう・・・今日はお夕飯、外で食べていらしてください。」
「へ?」
なんのこと?と起き上がってまじまじとせつなを見る。
まったく、と大袈裟に彼女は溜め息をはいてみせた。
「前から言っていたではありませんか。今日は、ほたるのお友達と、そのお母様と一緒に夕食を食べに行きます。
もちろん、ほたるも一緒に。」
「ああ、たしかにそんなこと言っていたような・・・。」
カレンダーにふと目をやると、今日の日付に大きく丸が描かれ、食事会!とこれまた大きな、歪んだ字で書かれてあった。
ほたるが書いたのだろう。
「じゃあ、あの時ほたるがいたのは・・・。」
「みちるさんが、ほたるを送っていったのですよ。サーキット場へはそのついでに寄ったのでしょう。
わたしももう少ししたら出ます。」
「・・・みちるは?」
おそるおそる、名前を出してみる。
それを一番知りたかったのでしょう?とせつなは苦笑した。
「彼女もまた、お食事に行くんですって。」
「・・・誰と?」
「さぁ・・・そういえば、バイオリンでよく共演なさっているピアノの方からよくお誘いがある、と言っていましたから、その方とかもしれませんわね。」
「は!?な、なにそれ!?」
「あら、お聞きになっていないんですか?」
「知らない!・・・みちる、今どこにいるんだ、場所は!?」
「たしか・・・」
場所を聞くや否や、バイクのキーをつかんで飛び出した。
とりあえず、「わたしとほたるは夜十時頃戻りますから!」と声をかけてみるものの、どうせ聞こえてはいないのだろう。
まぁ、いい。
と、彼女の口元に笑みが浮かんだ。
せつなから聞いた場所は、ここだった。
花がそこらに咲き乱れてはいるが、道はコンクリート。
近代的な場所でもあれば、どこか自然があって田舎のような場所である。
ふと、自動ドアが開く音が聞こえた。
「お元気になって、なによりだわ。」
聞き覚えのある声が、した。
「あなたはそうしている姿が一番似合うんだから・・・いつもそうでいてもらわないと・・・。」
よく、目上や、また音楽仲間との間にて使われる、どこか他人行儀な言葉使いではなく、
誰かにかけられている言葉はとても親しみのこめられたものであった。
「ええ、わたしは・・・そのあなたの姿が、一番好きなんだから・・・。」
好き
「みちる!!!」
「!?」
「好き、なのは僕だろ!?僕以外の誰が好きなんだよ!」
「は、はるか??」
「朝のこと、怒ってるんだろ!?反省している、このとおりだよ!あれは、本当、出来心で・・・」
「え、ちょ、ちょっと・・・」
止まらない
「もう、しないから・・・本当に、やめるから・・・だから・・・」
「はるか、だから、ちょっと・・・」
「だから、お願いだよ!僕以外を好きにならないで・・・!!僕には、僕には・・・」
本当に、君だけしかいないんだから・・・
「あ、あの・・・はるか・・・。」
「あっははははははっははは!!!」
感動的な、それも感傷的な台詞の後にはどうも似つかわしい、笑い声が響いた。
それも、なんだかどこかで、とても聞いたことのあるような笑い声・・・
「ほんっと・・・愛されてるのねぇ、みちるったら!」
・・・え?
「は、はるか、わかったから・・・ね、落ち着いて・・・。
誰から何を聞いてきたのかわからないけれど・・・一体突然どうしたの?」
「み、みちる・・・?」
「ほら、よく見て・・・わたしの隣に居る人は、一体誰?」
みちるから、少し視線をずらして、右・・・
「いやーー・・・これって修羅場っていうの?あはは、はるか、あんた怒らせるようなことしたの?」
・・・・・
え・・・
「エル・・・ザ・・・?」
健康的に焼けた肌。
以前あったときよりも、少し髪はのびたか。
「はぁい、お久しぶり!」
「え、あれ・・・?今日、一緒に食事をしにいくピアノの人って・・・。」
「・・・はるか、何を言っているの?わたしは今日、彼女に会う予定で、そのついでにほたるを送りあなたの所に寄ってきたのよ?」
「あー、ひっさしぶりにいいもの見せてもらっちゃったわ!」
「もう、エルザったら・・・。」
エルザは軽くみちると僕の背中をたたき、みちるは困ったかのように、けれど決して不快ではないという笑顔を浮かべている。
「みち・・・る?」
「なぁに?」
「いや・・・あれ・・・?」
「うーん、もう!」
そうかそうか、とエルザはまた一人微笑んだ。
「みちる、今日はありがと!わたしのことはいいから、ほらさっさと二人で出かけなさいよ!
言うこともたーんまり、あるんでしょ?」
「・・・そうね、その言葉に甘えさせていただくわ。」
「は?」
「うんうん、それがいいって!
じゃね、はるか。今度はあなたも、一緒においでなさいよ!」
「あ、ああ・・・。」
「じゃあねエルザ。」
「じゃあね〜ん!」
ほら、行くわよ?と顔を覗かれるまで、しばらく僕の思考は止まっていた。
「――・・・だからね、今日はエルザに会いに言っていたのよ。彼女、このあいだのレースで怪我したっていうから、そのお見舞い。」
「ふ、ふぅん・・・。」
「あなたがさっきこだわった言葉の意味は、もう説明しないでも、おわかりかしら?」
「あ、ああ・・・。」
もう思い出したくもない。
「でも、びっくりしたわ。いきなりあの場所にあなたがいて、飛び出してくるのだもの。」
「や、だから、あれは・・・。」
あれ?と思い出す。
僕があの場所にいったのは、彼女が約束をしているらしいということで。
その約束は、バイオリンで共演しているピアノ奏者との約束ということで。
そのピアノ奏者にはよく食事に誘われていて。
それを教えてくれたのは・・・
「・・・はるか、今日は何日?」
「え・・・し、四月の・・・一日・・・?」
「今日のこと、なんていうか知ってる?poisson d'avril。四月の魚。」
「・・・・・。」
つまりは、エイプリル・フールということで。
「やら・・・れた・・・!!」
つまりは、四月一日ならではの、許される嘘。
せつなには、してやられたということだ。
「あーーーもうっ!なんだよそれっ!・・・あーーー・・・あんな恥ずかしいことして・・・。」
「あら?わたしは、嬉しかったわよ?」
少し恥ずかしかったけれど、と笑う。
「あなたにああ言ってもらえて、嬉しかったわ。」
「・・・みちる・・・。」
「それに、せつなのついた嘘・・・半分当たっているしね。」
「え?」
全てを言い終わらないうちに、僕の腕に彼女が絡みつく。
「今晩は、二人ともいないのよ?だから、今日はわたしとあなたで、外で食事に行くのよ?」
「あ、ああ・・・。」
「ねぇ、お勧めのお店があるの。今から行ってみましょうよ、あなたのバイクで・・・ね?わたしのピアニストさん?」
あ
なんだよ、そういうことか。
「かしこまりました、僕のバイオリニストさん。」
そう返して、思わず自分で笑ってしまった。
やはり、せつなにも、それにみちるにも永遠に敵わないのかもしれないな。
「ねぇ見て。桜の蕾、赤くなってきたわ。きっともうすぐ咲くのよ、楽しみね。」
「そしたら四人でお花見行こうな。きっと楽しいぜ。」
「ええ、とても楽しみだわ!」
そういった、彼女の笑顔は、きっと未だ咲かない桜の花にも敵わないほどの美しさだった。
「そうそう、さっきの約束・・・守ってね?」
「ん?」
「『もうしないから、本当にやめるから』」
「・・・・・。」
「ね?」
善処を、つくします・・・。
そう言ったら、思いっきり頬をつねられた。
たいっっっっへん長らくお待たせしました、プゥ子さま・・・
ここ、まだ見ていらっしゃればよいんですが・・・本当に、申し訳ございません・・・
お題は「嫉妬かなにかで怒っている?みちるにあせりながら、謝るはるかを・・・」でした。
「嫉妬かなにかで怒っている?みちる」と「謝るはるか」はクリアしたと思うのですが、
「あせりながら」
・・・。
できてましたでしょうか・・・?
とりあえず、今月が四月であるということもからめ、エイプリルフールネタで絡めて見ました・・・
「poisson d'avril」は、「ポワゾン・ダヴリル」と読むそうです(そうですって・・・)
本当遅くなってしまってもうしわけないです!
この作品は、5000ヒット踏んでくださったプゥ子さまに、ささげます!
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